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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)867号 決定 1960年7月16日

抗告人 三和工業株式会社

主文

原決定を取消す。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は末尾記載の通りである。

原決定の理由は、「債権者(抗告人)は破産債権の存在を疏明しない。よつて本件は申立の要件を欠くものである。」というに在る。そして、記録によれば、抗告人が、本件破産宣告申立書に破産債権として掲げたのは、抗告会社が債務者白石鉱業株式会社に対して有する昭和三四年三月三一日の約定に基く返済期同年六月三〇日とした金額一五七万円の金銭債権(損害賠償債権)だけであるから、原決定の前記理由の趣旨は、右一五七万円の債権について、その疏明がないとの趣旨と推認される。

そこで、抗告会社の右債権の存在について疏明の有無を検討する。抗告人が本件破産宣告申立書に添付して提出した疏甲第一号証公証人宮脇信介作成昭和三四年第三五七〇号債務確認並に弁済契約公正証書正本によれば、債務者白石鉱業株式会社は、昭和三四年三月三一日、抗告会社に対し、昭和三三年一一月、債務者会社取締役大川弘太郎及び顧問有馬努の両名が、抗告会社振出の約束手形一五通を割引いて入手した金額中、債務者会社において費消して抗告会社に与えた損害の賠償として、一五七万円を、昭和三四年六月三〇日までに返済することを約したことを一応認めることができるから、他に特段の事由のない限り、前記破産債権の存在は、その疏明があるものといわなければならない。

そこで右特段の事由の存否について考察するに、疏甲第一号証によれば、債務者会社は抗告会社に対し、前記債権を担保するため、「債務者会社の有する石灰石の採掘権福採第八一五号並にその鉱区たる福島県相馬郡鹿島町字小池に於て所有する小池石灰石鉱工所の鉱業施設一切」に対し一番抵当権を設定し、その登記をすることを契約したことが認められるから、この契約の通り抵当権が設定されて居れば、抗告会社は右抵当権の目的物件に対し、別除権を有するものであるから、その別除権を放棄し、または、これを行使してなお残債権の存することを疏明しない限り、前記の破産債権の疏明はないことに帰するわけである。

しかしながら抗告会社と債務者会社との右抵当権設定に関する契約の文言特に目的物件の表示は前示摘録の通りであつて、採掘権のことは別として、その他の物件については、各物件の一つ一つを特定することなく、しかも「小池鉱工所の鉱業施設一切」といえば、機械器具家具等鉱業財団を設定しない限り、抵当権の目的とならない物件をも包含しているものと解すべきであるから、この契約によつて、直ちに抵当権設定の効力を生じたものと解することを得ず、また、採掘権についても、抵当権の設定は鉱業原簿えの登録を以て効力発生の要件とするものであるから(鉱業法第五九条第六〇条)、これまた右契約の締結だけを以て抵当権設定の効力を生じたものということを得ず、なお記録を通読しても(一)、右採掘権と小池鉱工所の鉱業施設一切を包括したものについてにもせよ、または(二)、小池鉱工所の鉱業施設一切だけについてにもせよ、鉱業財団の設定が行われてその所有権保存登記(鉱業抵当法第三条工場抵当法第九条)が行われたことを認めるべき資料もなく、また右採掘権について抵当権設定の登録の行われた資料も存しない。して見れば、前記契約による抵当権は、採掘権についてはいまだその設定の効力が発生せず、その他の物件については、抵当権の設定が行われたとすらいい得ないものであるから、これらの権利または物件について、抗告会社が別除権を有するものとはいい得ないわけである。

以上の次第で、前記破産債権の疏明なしとすべき特段の事由の存在はこれを認め得ない。そうだとすれば、原決定はこの点に関する判断を誤つて申立を却下した違法があるので、取消を免れない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 内田護文 鈴木禎次郎 入山実)

申立の趣旨

原決定を取消し更に相当なる御裁判を求めます

申立の理由

一、抗告申立人は昭和三十四年九月二十四日白石鉱業株式会社に対する破産宣告の申立を、東京地方裁判所に提起しました。

二、右は同庁昭和三十四年(フ)第二四五号を以て受理されました

三、然るに、昭和三十四年十一月十七日同庁は、「破産債権の存在の疏明が充分で無い」とて本件申立を却下した

四、右正本は、同月十八日送達を受けた

五、然し乍ら、破産債権の存在の疏明は、申立書に、詳細を尽さずとも、債務者を審問すれば判明するはずである

裁判所が探偵社や興信所の調査報告書を疏明方法として重視するが如きは、徒らに彼等の腹を肥すのみである

六、本件の申立は要件に欠けていない

依而 茲に抗告申立に及びたる次第であります

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